スタジオと「ふれあいこーなー」
最後に僕の部屋を紹介します.
(c) mashow
勝手口ドア: スチール造作/ローバル塗装
土間の床: 砂利洗い出し
スタジオ床: ロビンソンコルク
収納: シナ合板 クリア塗装
ワークデスク:ペーパーウッド
壁(奥): 木質セメント
壁(サイド):AEP つや消し
天井: AEP つや消し
照明機器: オーデリック,LUTRON,神保
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ガレージとスタジオはお金をかけなくてよいと考えていた.我が家の中の位置づけでは,ガレージは車を置く場所だしスタジオは機材を置く場所なので,どちらも物置のようなものだからだ.なので,きれいに作りすぎないこととお金をなるべくかけないことを意識した.以前はリビングの片隅などに置かれて煙たがられていた楽器などが,正当に設置できる場所が手に入るだけでもありがたいことだ.
予算を積んで美しく出来るのは,いってしまえば当たり前のことだ.もちろんそれは悪いことではない.我が家でも,ダイニングなどのメイン空間に関しては,気持ちよく楽にたのしく暮らせるよう半ば意図的にそれなりのコストをかけた.一方で,安普請だけれどもカッコいいものにあこがれる気持ちもあった.
リーズナブルだけれどもカッコよくてさらに他で見たことがないようなものが出来れば,それって最強じゃない?―――スタジオとガレージは私が主体として仕様決定できたので,ここだとばかりにそういった方向性でチャレンジしてみたのだった.
実質的なガレージ・スタジオの仕上げは,玄関わきの納戸―――つまり正真正銘の物置―――の仕様に近い.とはいえ細かいことを言えば,多少の違いもある.ガレージには簡単な間接照明が入っていたり,スタジオには可変式のスポット照明が採用されていたりする.スタジオの壁は,石膏ボードのAEP塗装ではなくて木質セメントという構造材のようなものをそのままむきだしで使っている.天井の色は,空間の性格を考慮して黒く塗られていたりする*1.
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そのような相違はあるももの,他の項目は納戸と大差がない.机や収納などの造作家具はシナ合板にクリア塗装という簡素なものだし,家具も前の家からのあまりものや中古品などでまかなわれている.ガレージのシャッターレールや雨どいはむき出しのままだし,ガレージの排水溝は何の変哲もないスチール製のグレーチングが採用されている.
いずれにしても全面タイル張りとか,全面ガラスとか,木製サッシを多用するとか,カッコいいけれど高い家具をいれるとか,そういった方向での背伸びはしなかった.「安い速い*2カッコいい」を合言葉に,建築家とプラニングを勧めた.
そんな力の抜け方が良いように作用したのか,スタジオ-土間-ガレージと続くこの場所―――事実上の物置―――は,なかなか良い空間に仕上がった.
ガレージとの仕切りを閉めた状態 (c) mashow
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引っ越しが終わってから,ガレージとスタジオの間にある土間にさっそく家具を並べてみた.20年近く前にとある大学のごみ捨て場から拾われてきたボロボロのカリモクのシングルソファをひとつ,さらに妻が学生のころから使っていた無印良品のスツールを着ふるしたデニムで改造したものをひとつ置いた.そのあいだに,古道具屋で妻が発掘してきたという天童木工の籐のローテーブルをそろえてみると,これはこれで味わい深い休憩所のように見えてくる.
そうして半ば悦に入っているところに,五歳になった長男が様子を見にやってきた.使い古しの歯ブラシのように広がるほど読み込まれた,折り畳み式のバスの路線図を手に一階まで降りてきた彼は,この喫茶スペースのような空間をひとめ見てこう言った.
「ぱぱ,おうちにもふれあいこーなーをつくったの?」
隣で聞いていた妻はすぐに意味が分かったらしく笑いだした.彼女の解説によると南北線の駅にはときおり「ふれあいコーナー」と書かれた休憩所があって,そこは座ってお茶を飲んだりできるスペースになっているのだそうだ.バスや電車などの公共交通機関が好きな長男は,以前からそのコーナーのことが気になっていたらしい.
我が家の土間は,そんな五歳児の目には南北線のホームの端にある「ふれあいコーナー」のように映ったらしかった.言われてみればそうかもしれない.確かにこれは「ふれあいこーなー」だ.いっそ給湯器でもおいてさらにふれあいコーナーらしさをさらに出してみたくなってくるほどだ.
そんなわけで,このガレージとスタジオの間にある空間は「ふれあいこーなー」とみんなに呼ばれるようになった.それ以来この場所はもはや物置ではなくなり,家族とのふれあいのある私の部屋になった.
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