羊飼いたちの休日

全力で家を建てたブログ

大きな愛

今のプランに決まるまで,沢山の案が建築家によって提示された.それぞれにまったく違う内容でいながら,極めて均衡したレベルで拮抗するようなプランが複数提示された.どれかひとつには決めがたい.

 

こうした設計プラン群というものは,同じ土地という母体をもとに,建築家によって創造された兄弟のようなものだ.兄弟は背丈も性格も違って,それぞれに無二の長所があり,それぞれにそれなりの欠点がある.

 

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ともかくどれかを選ばないといけない.最終的には三つほどの案が残り,紆余曲折を経て,そのなかからひとつが選ばれた.

 

 

最終選考で落ちた案たちは,さながら生き別れの兄弟のようなものかもしれない,と思う.コンセプトとして実を結ぶまであと一歩というところまできたが,その種は施主の気まぐれでふっと別の世界に飛ばされた.

 

 

全てを満たす家は存在しない.何かを選ぶということは,それ以外の全てを捨てたということ.

 

けれども,逆に言えばそうして捨てられた案の特徴は,ネガがポジに反転されるような形で,いま選ばれた案に残っているともいえる.途中で消えた彼らのかすかな記憶や気配のようなものが,採用されたプランの中に「彼らがいない」という逆説的な痕跡として残っているのだ.

 

見た目も違えば,得意なことも違う兄弟であったからこそ,彼らは一人を残して消えていったのだし,それと同様に,それぞれがオンリーワンな存在であったからこそ,消えてなお彼らの欠損があとになっても分かるのだと思う.

 

だから,僕たちが最終的に選んだ案の背後には,いつも彼らの面影がある.

 

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いずれにしても,そういった思いも重ねあわせて今の設計プランと触れ合ってゆけば,どんなふうに建てたってきっと,いい家が建つような気がしている.