羊飼いたちの休日

全力で家を建てたブログ

ベルタゾーニの使用感:その1

 ベルタゾーニのガスオーブンが採用されるまでの経緯については,以前にこの記事で書いた.今回はその使用感について書く.

holidayforpans.hatenablog.com

 

はじめに

 一般的なガスオーブンの特性や使用感に関しては,すでに多くのブログで様々な知見が示されている.一方で,ベルタゾーニに関しては商業ベースのタイアップ記事が散見されるにとどまり*1,エンドユーザー目線での使い勝手については十分にその詳細が報告されていない*2.この記事では,コンシューマーの立場からベルタゾーニの実際の使い勝手を明らかにする.

 

仕様

f:id:mashow:20150717133512p:plain

 

 注目すべき点はそれほどない.容量が65Lと十分に大きいこと,出力が一般的な100V電気オーブンの限界である消費電力1500W/最高出力1000W*3を大きく超えた2200W確保されており必要十分であること,基本的な調理に必要な温度レンジがあること,扉のガラスが取り外せること,比較的軽いこと(上図).簡単にまとめてしまえば,必要十分な性能をもったガスオーブンということになる.

 

壁面収納の利点

 さらに追記しておくべき特徴としては,壁面収納が可能*4ということだ.一般的な国産ガスオーブンは,レンジの下に収納されるタイプがほとんどだ.その場合,使用に当たっては常に腰をかがめる必要が出てくる.例えば家族四人分のグラタンを乗せたオーブントレーなどはかなり重さがあるため,そういったものを腰をかがめて庫室内に出し入れするのは,端的に言って解剖学的に理にかなっていない.

 また,オーブンの収納のためにキャビネットにある程度の高さが必要になるためレンジトップもそれにあわせて必然的に高くなる.調理者の身長が低い場合,身体に合わせた最適なレンジのトップ高が確保できない大きな原因になる.一般に,ワークトップは

肘の高さから15~20cm低い高さが疲れにくい*5

 と言われている.コンロのトップ面を考えた場合,そこからさらに五徳の高さと鍋やフライパンなどの高さが足される.このため,実際のコンロのワークトップ面はシンク周辺のトップ高よりもそういったものを差し引いて,さらに低く設計することが多い.

 我が家の場合,妻の身長が150cm程度である.コンロの下にオーブンレンジを入れない方針としたため,身長にあわせたコンロのワークトップ高を700mm*6とすることができた(下図).したがって,壁面収納可能なオーブンの採用によって「オーブン自体の使いやすい高さ」以外にも,「コンロの使いやすい高さ」を確保することができた.

 

f:id:mashow:20150705124403j:plain

 

 

 

 

操作法

 このオーブンはシンプルで使いやすく,慣れるまでに要する時間は短い.操作体系は基本的に三つのつまみからなる(下図).

 

f:id:mashow:20150716221431j:plain

 

モード設定と温度調節

 まずは左のつまみから説明する.反時計回りにまわすことで温度設定をおこなう.設定可能な温度は130度から250度になっている.この左端のつまみを逆に時計回りに回すと,ブロイル*7モードになる.このモードでは上部から直火で焦げ目を付けることができる.

 

タイマー

 中央のつまみはタイマーになっており,一時間までの設定が可能である.注意しなければならないのは,タイマーを動作させても定刻にジリリと音が鳴るだけであって,実際にガスが止まるわけではないということだ.オーブンを使う際は,基本的に主体的に料理をしている状態であるので,実際のところ音が鳴るだけで十分なことが多い.

 

タイマーのタイマーとしての応用

 さらに言えば,このタイマーは応用が可能である.他の調理などで時間を測定したい場合などでも,オーブンを使わない状態でタイマーだけが機械的に作動するつくりになっているため,あたかも大げさな壁面ビルトインタイマーのように使うことができる.意外と置き場に困るわりにいざというときには見つからないキッチンタイマーのお世話にならなくとも,同様の機能をベルタゾーニで代用することができる.

 

コンベクション機能

 右端のつまみは,コンベクションのスイッチになっている.時計回りにつまみをまわすとファンが回る.

 

掃除

 また,庫室内の汚れを焼いて落とす機能*8はベルタゾーニにはない.けれども,使用後のトレイをそのまま食洗機*9に入れることで実際には問題にならない.

 

f:id:mashow:20150717134540p:plain

 

 

使い勝手

パンを焼く

 使い勝手を評価するために,実際にパンを調理した.比較的表面はカリっと,内部は均一にしっとりと焼きあがった.風味もまずまずであった.しかしながら,ふくらみは不十分であった*10

 

f:id:mashow:20150131215545j:plain

Fig.1B: 調理前

 

f:id:mashow:20150131224348j:plain

Fig.1B: 調理後

 

 

考察

 すでに示したように,ベルタゾーニのオーブンで焼き上げられたパンは「カリッと」「しっとり」と仕上がったが,一方で「ふっくら」は不十分であった.

 

カリッとしっとりを成立させる要素はなにか

 一般にガスオーブンで焼いたパンは,表面が「カリッと」内部は「しっとり」と仕上がると言われている.ベルタゾーニで焼いたパンは,ふっくら不十分であったものの,カリッと要素ならびにしっとり要素に関しては十分であった.まずカリッとしっとりについて検討する.

 カリッとしっとりとした焼き上がりは,主に強い火力で効率よく短時間で調理することで実現されると考えられる.火力の実質的な強さにかかわる要素のひとつが,ガス燃焼の際に生成する水蒸気の存在である.

 一般に,庫室内の湿度が高くなるにつれて調理の歩留まり*11が上昇し,生地の膨張率が高まり,焼け焦げが減ることで好ましい焼き色になりやすく,さらに焼きあがりがやわらかくなることが知られている*12

 一般にガスの主成分である炭化水素が酸化する際には,水が生成する.ガスの主成分を一般的にn個の炭素からなるアルカンとした場合,この副次反応は以下のような化学式で表すことができる*13

CnH(2n+2)+(3n+1)/2O2→nCO2+(n+1)H2O.

 したがって,CnH(2n+2)で表されるようなアルカンが1mol*14燃焼した場合,(n+1)molの水が生成する.この水分が高温の水蒸気となってチャンバー内を満たすことで,乾燥している場合にくらべると同じ温度であっても燃焼室内の比熱が上昇する.水蒸気の存在によって,熱伝導高率は最大8倍程度まで上がるという報告もある.

 ベルタゾーニなどのガスオーブンと一般的な従来の電気オーブン*15を比較した場合では,この水蒸気の有無のために,調理時における両者の熱力学動態には違いが生じることになる.熱伝導効率の良い水蒸気の存在のおかげでより短時間で効率よく焼きあがる.このおかげで,パン内部の水分が失われる前に表面が十分にカリッと仕上がる一方で,生地の中心部などではしっとりとした食感が保たれているのかもしれない.もちろん,焦げにくさも特筆に価する.

 こういった調理状態は本来ガス式の特徴といっていいが,近年では加熱水蒸気などを利用して電気式でも同様の調理状態を作り出せるモデルも開発された.200V式で十分な出力があり,さらにそのようなスチーム機能も付いているような製品では,ガス式と比べても性能に遜色がない.さらに,低温から温度設定ができるなど電気ならではの調節の自由度があり,パン生地の低温発酵になどではそういった機能が利用できるなどの利点もある.

 

なぜふっくらしなかったのか

 一般にガスオーブンでパンを焼いた場合,十分なふくらみが得られやすいとされる.しかしながら,今回はそうではなかった.これはなぜだろうか.

 カリッと要素としっとり要素に関しては問題なく再現できていることから,オーブン自体の性能の問題というよりは,ふくらみが足りなかった原因はそれ以外にあると考えた.

 一般にグルテンの含有量がパン生地の弾性に関係するため,グルテンが増えるとパンが膨らみやすくなることがすでに知られている*16.今回使用した北海道産の春よ恋ブレンドは一般的な国産小麦と同様に,海外産の強力粉と比較してグルテン含有量が低い*17.このために,十分にふくらまずに焼きあがった可能性が否定できない.

 この点を考慮し,今後より製パンに適した強力粉を選択するなどして比較を行ったうえでふくらみが不足した原因を明らかにしていく必要がある.

 

200V電気オーブンとの比較

 このガスオーブンと比較されるべきものがあるとすれば,それはミーレ社の製品などに代表される200Vタイプの電気オーブンである.結論を先に言えば,ガスか電気かという以外には実は両者には決定的な性能の差がない.ガス式のオーブンを100Vタイプと比較するならば火力などに大きな差があるが,200Vタイプでは火力が十分に確保される.スチーム機能があれば,仕上がりもそん色ない.ミーレは壁収納も可能である.しいて差を言えば,低温の設定が200V式のほうが自由度が高い.価格に関しては,ベルタゾーニのほうが安い.

 実際に例えばミーレの6260あたりとベルタゾーニのガスオーブンを比較した場合,両者は甲乙付けがたいと言わざるをえない.ミーレは実際に我が家に採用していないのでそういった意味では使い勝手の詳細は分からないが,一つ前のモデルである5240は渋谷のショールーム*18で実際に使わせてもらったことがあった.材料持込でラザニアを作ってみたのだが,極めておいしくできた.余熱も十分に早く使い勝手においても問題は見受けられなかった.

 我が家がミーレを選ばなかった理由はこちらに書いたとおりだ.さておき,一般的に言えばどちらを選んでもそれぞれの利点があるといえる程度に両者の本質的な性能は拮抗している.最後に使い勝手に関して言えば,ベルタゾーニはシンプル,ミーレは多機能という違いがある.

 

 

結論

 ベルタゾーニのガスオーブンは操作がシンプルで使いやすく,機能も必要十分である.パンの調理においては,従来のガスオーブンと同等にカリッとしっとり焼くことが出来たが,ふわっと仕上げることは出来なかった.これは材料の選択が適切でなかった可能性がある.より本来の実力を発揮するための材料選択が今後の課題として残る.200V仕様の電気式オーブンとの比較では本質的な性能では両者に明確な差はなく,好みや状況に応じて採用を検討すればよい.

 

f:id:mashow:20150517152811j:plain

(c) mashow

 

 

次回たぶん、ふっくらリベンジ編.

*1:http://allabout.co.jp/gm/gc/438957/

*2:竣工から半年ほど,だから自分が書かなきゃと思いつつも

*3:100V製品であっても1000W程度の出力を誇るものもあるが,通常は数分しかその最高出力を保つことができず長時間調理する場合は自動的に600W程度に落ちる設計になっているものが多い.一方で,200Vであれば電気式でありながらもガス式と比べてもそん色ない出力が得られるものが多い.電子レンジ・オーブンレンジを購入した三人に一人が後悔しているというデータがある。これは、すでに述べたような100V式にしばしばみられる「一見高機能で高性能だけれども実際の性能が伴わない」という問題と関連しているかもしれない http://www.marsh-research.co.jp/mini_research/mr201304_1kitchen.html

*4:ガゲナウのガス式,ミーレの電気式なども可能

*5:http://allabout.co.jp/gm/gc/28647/

*6:シンク周辺のワークトップは850mm

*7:いわゆる「グリル」

*8:ミーレやガゲナウのオーブンにはこの機能がついているモデルがある

*9:これは60cm幅食洗機の利点の一つといえる

*10:Fig. 1A-B

*11:全体的にうまく焼ける確率

*12:Xue, J., G. Lefort, and C. E. Walker. "EFFECTS OF OVEN HUMIDITY ON FOODS BAKED IN GAS CONVECTION OVENS1." Journal of food processing and preservation 28.3 (2004): 179-200.

*13:18年ぶりに書く有機化学の反応式は正直あっているか不安

*14:分子量の単位

*15:スチーム機能などがない製品

*16:福田明彦, et al. "小麦粉成分の製パン性に及ぼす影響." 日本食品工業学会誌21.8 (1974): 377-383.

*17:http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1216838107

*18:現在は移転