羊飼いたちの休日

全力で家を建てたブログ

とても大切な10平米

 

へらへらぼっちゃん (講談社文庫)

へらへらぼっちゃん (講談社文庫)

 

 

あはは。遊びのイロハもわかっとらん。ハンドルには左右に五度ばかり、きってもタイヤが動かぬ範囲があり、これを称してハンドルの遊びという。

町田康へらへらぼっちゃん」より

 

 

 

 

我が家にふさわしい広さはいかほどであろうか

家は広ければいいというものではないし,狭すぎても困る.人間のサイズは決まっているのだから,家も自然と演繹的に適切な広さというものが決まるはずだ.

 

 

■9畳で完結する生活

学生の頃は,築30年の木造アパートに住んでいた.

 

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当時,親からの仕送りの総額が決まっていた.だから,そのなかかやりくりして家賃を払えばよいことになる.当時から欲しいものや行きたいところはたくさんあったので,家にかかるお金はなるべく安く済ませたかった.そんなわけで,家賃5万円で駅まで5分,大学までも5分という物件にしたのだった.

 

そのぼろ家にはいろいろな問題があったけれども,良いところもいくつかあった.そこそこの広さと,駅や大学の近さだ.

 

 

6畳+3畳+キッチン+押入れ2つという広さは,趣味の多い僕にとっても十分な広さだった.大学まで徒歩5分というのも気に入っていた.新宿にも池袋にも丸の内にも地下鉄に乗れば15分でたどり着けたし,秋葉原お茶の水は徒歩圏内だった.

 

親はもうすこし高い家賃を想定していたので,差額は自分の小遣いになった.そうして余ったお金は,アルバイト代と併せて旅行代になったり楽器代に消えたりした.今思えば,ある意味でとても学生らしい生活だった.

 

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Cinque Terre, ITALIA

 

 

このころは,一人暮らしではあったが,このボロ木造アパートの広さで満足していた.だからそれ以来僕は,自分にふさわしい部屋の広さは,キッチンや風呂などを除くとせいぜい9畳(約15平米)で十分なのだと思うようになった

 

ちなみに卒業時に引っ越した際の日記を読むと,僕の荷物は合計で「6立方メートルとロードバイク一台」と書かれている.ヤマト便で荷物を発送し,自分は輪行で新幹線に乗って引っ越した.駅で自転車を組み立てて走り出すと,引っ越しのトラックより先に新居に着いた.

 

 

■広ければいいってもんでもない 

その新居は,社会人になってから最初に住んだ家だ.ものは試しと借りてみたのだが,中身はどこにでもあるような造りの新築物件で,広さは45平米くらいの1LDKだった.いざそこで生活をしてみると,実際のところリビングですべて事足りてしまったので*1,もう一部屋は物置のような状態になってしまった.広い家に上手に住むのは難しいのだ.

 

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当時の我が家.スピーカーの前の9畳ほどの空間で生活が完結してしまう.

 

 

そんなこともあって,自分の部屋はひとつで良いと思うようになった.それをさらに突き詰めて,「結婚して家族での生活になってからも,広いリビングが一つあればそれで事足りるのではないか」と考えていたのは先日書いたとおりである.けれどもこの案は結局ボツになった.もう少し全体の余裕をとりながら広いリビングは諦めるという方向で案を考えなおし,それが採用されたのだった.

 

 

■我が家にふさわしい広さはどれほどか

話をまとめると,一人当たり15平米(9畳)のプライベート空間に加えて,適当な生活機能空間があればよいという事になる.我が家は4人家族なので,プライベート空間は60平米(36畳)という計算だ.その他にリビングやキッチンや風呂などの共用スペースが同程度あるとすると,合計で約120平米(72畳)になる.実際に4人家族が暮らす家としては,そのくらいあると楽だ*2

 

■消えた48平米

実は,採用案は約168平米の床面積だ.168-120=48,ということで差分の48平米はいったいどこから出てきたのか,もしくはどこに消えていったのか.

 

168平米という広さは,現状住んでいるマンションの三倍近くの広さになる.けれども,新しい家の面積にはガレージや土間や納戸なども含まれているのは確かだ.以下にその内訳を表記した.

 

  (㎡) (畳)
玄関 7.2㎡ 4.3J
ガレージ+土間 22.9㎡ 13.7J
納戸 8.2㎡ 4.9J
スタジオ 15.5㎡ 9.3J
一階合計 53.8 32.4J
     
テラス(6.8㎡+他2箇所の計 9.2㎡ 5.5J
リビング+書架 12.5㎡ 7.5J
ダイニング 16.6㎡ 10J
キッチン 15.5㎡ 9.3J
二階合計 53.8 32.4J
     
子供部屋 12.5㎡ 7.5J
洗面 5.4㎡ 3.3J
テラス 5.3㎡ 3.2J
風呂(脱衣3.4㎡含む) 7.5㎡ 4.5J
寝室 9.4㎡ 5.7J
クローゼット 3.6㎡ 2.2J
三階合計 43.7 26.3J
     
階段,廊下,PS他 17㎡ 10.3J
各階合計 168 101.2J


ちなみにスタジオという名目で設けた僕の部屋はやはり9畳だ.一方で,リビングダイニングキッチンを合計すると26.8畳となり,これはかなり広い.とくにキッチンはそれだけで9畳あり,これは破格の広さと言える.けれどもじつは,キッチンの中に妻専用のワークスペースが内臓されているのだった.

 

 

■遊んでいる空間

先ほど書いたように,あまっているはずの48平米の一部は,ガレージや納戸などに消える.けれども,そういったものを足してもまだいくらか勘定が合わない.

 

このつじつまが合わない分が,じつはこの家の「遊び」だ.ここでいう「遊び」は,「空間的なゆとり」と言い換えても良いし,「無駄」とか「ヴォイド」などと呼ぶ人もいる.ともかく,こういった遊びの空間は,直接は生活の役に立たないような一見ムダなスペースなのだが,結果的に生活にも遊びやゆとりが出るものだ.

 

この遊んでいるスペースを数字で言えばおそらく10平米くらいだ.これは狭いワンルームくらいの広さだからそんなにゆとりといえるほどのものでもないかもしれない.けれども,我が家にとってはとても大切な10平米である.

*1:もちろん忙しくて片づけられなかったことなどもあるが

*2:現状の我が家はこの数字を大きく下回っているが